STUDY
りんごについて学ぶ

りんご生産者の声

りんご生産者は、どのような経緯でりんご栽培を始め、どのように考えながら日々の作業を行なっているのか。実際にりんご栽培を行なっている、飯綱町ふるさと振興公社の上野さんにお話をお伺いしました。りんご栽培に興味がある方、これからりんご栽培を始めてみたい方の参考になれば幸いです。

りんごの栽培を始めた理由

voice-01.jpg

私は愛知県生まれ兵庫県育ちで、りんごには全く縁がなく、時折スーパーで買ったりんごを食べてみても兵庫のりんごは大して美味しくないなぁといった印象しかなく、りんご好きだというわけではありませんでした。唯一の関わりといえば、高校時代の修学旅行で長野県へ行きりんご狩りをした思い出がある、といったくらいでした。
そんな私が初めてりんごと関わりを持ったのは、大学卒業後、長野県出身の現在の夫と出会い結婚し、長野県の松本に住むことになった際、なんとなく始めたりんご農家のバイトでした。摘果作業を行なっていたのですが、もともと外で働くことが好きだった性格もあり、自然の中で汗をかきながら仕事をすることがとても気持ち良く、楽しく感じました。そのりんご農家のおばあちゃんがとても素敵な方で、「りんごは愛情をかければ、かけた分返してくれるんだよ」と言っていたことがとても印象的で今でも覚えています。そんな、人とのご縁も相まって、私はどんどんりんご栽培にハマっていきました。
その後、長野県の違う地域に移り住みことになり、そこでもりんごの仕事がしたいと探していた時にある農家さんを紹介していただき、働くことになりました。その農家さんは、とても勉強・研究熱心な方で、土づくりや農薬についてかなり勉強されていて、自分独自のりんご栽培をしていました。そこでさまざまな事を教えていただき、りんご栽培ってこんなにも奥が深いんだ、という事を知り、ますますりんご栽培にのめり込んでいきました。そうして、今に至ります。ここまでりんご栽培が好きになったのは、人のご縁の影響が大きいと思います。

りんご栽培の魅力

voice-02.jpg

まず、なんといっても職場環境が最高で、緑いっぱいのりんご畑と、遠くに見える山々、広い空、こんな美しい自然にかこまれながら仕事ができるのは本当に幸せだなあ、と感じます。長野県に住んで10年以上になりますが、いまだに自然豊かな観光地に来たような新鮮な気持ちで働いています。
私はもともと飽きっぽい性格で、これまでも職を転々としてきました。でも、りんご栽培と出会ってからは、毎日飽きる事なく、それどころかりんご栽培の魅力にどんどん引き込まれていっています。自然相手の仕事なので、毎日違う課題や疑問があり、毎年違うことが起き、一日として同じ日がない、というところが飽きのこないりんご栽培の魅力のひとつだと思います。とは言っても、例えば摘果作業などは一日中単純作業の繰り返しで、飽きてしまう方もいるかもしれません。ですが、摘果作業ひとつ取っても、「この実はなんで取るんだろう?この枝はこれでいいのか?今年の気象条件はどうかな?」などと考えながら作業をすると、単純作業でも飽きることはありません。
私は園長としてりんご畑の管理をしているので、消毒、草刈り、畑の整備などのために重機やフォークリフトの免許を取るなど、新しいことにも挑戦しました。私はまさか自分が重機を運転するなんて夢にも思っていませんでしたが、実際に免許を取って運転してみると、これもまた楽しく、新しいことに挑戦してよかったと思っています。このように自分が想像もしていなかった事を体験できるのも、りんご栽培の楽しみのひとつだと思います。
最近では土作り・堆肥作りを自分の手で行っています。そうなると、微生物や農薬、環境問題などにまで探究心が広がっていき、次から次へと知りたいことが増えていき興味が尽きない、そんな奥深さもりんご栽培の魅力です。
これまで詳しく、私が思うりんご栽培の魅力についてお話しさせていただきましたが、りんご栽培の魅力をひと言で言うのであれば、本格的なりんご栽培ではなく、お手伝い感覚でやっても楽しいということです。重機を運転したり、栽培の勉強をしたりしなくても、畑にきて自然の中で汗水たらし働くことはとても気持ちがいいです。また、品種ごとの花の違いを楽しめるのもりんご農家ならでは。時期になると畑一面に綺麗な花が咲き、花の甘い香りが広がります。こんなささやかな楽しみを味わえるのも、りんご栽培の良いところだと感じています。

女性の仕事としてのりんご栽培

voice-03.jpg

これまでのりんご栽培というと、女性農家の役割は、花摘み・摘果・葉摘み玉回し・収穫など、手作業でやる仕事をピンポイントで行うというものでした。そして、男性農家は重機を使い畑の整備や消毒、剪定を行なったりと畑の管理をするという役割で、男女分業型でした。根気のいる作業は女性の方が向いている、力仕事は男性の仕事だ、という先入観もあるかもしれまんが、私が実際やってみて思うことは、重機を使った作業も女性でもできる、ということです。
実際に剪定から収穫まで1年を通して自分で作業すると、りんごの木1本1本に愛着が湧くし、畑の状況もよく分かります。女性の方も私には無理なんじゃないか、など思わず、1年通してさまざまな作業を体験していただけると、りんご栽培の面白さをより深く感じることができると思います。
余談ですが、重機は基本的に男性向けに作られていることが多く、女性だとクラッチに足が届かない、なんてことも多々あります。女性の農家が増えることによって、こんな問題も解決してくれればいいな、と私個人としては願っています。
また、男性より女性の方が、農薬や環境問題に敏感な方が多く、興味を持っている方も多いのではないでしょうか。そんな女性にこれからもっと活躍していただき、農業に新しい風を吹かせてくれれば嬉しいです。アルバイトなどで働く場合は、りんご栽培が忙しくない時期=学校の長期休み(夏休み・春休み)と大体被るので、そこも働きやすいポイントだと思っています。

非農家からのりんご栽培

voice-04.jpg

小さい頃から農業とは縁がなかった私ですが、だからこそこんなにもりんご栽培にハマることが出来たのかも、と思うことがあります。長野県の方にりんご栽培をやってみたい、というお話をすると、高確率でまず最初に「大変だからやめた方が良いよ」と言われます。飯綱町に住み、りんご栽培の酸いも甘いも知っている方にすれば当たり前の話なのかもしれません。私がりんご栽培をやってみた時、初めて経験することや、尽きることのない疑問や課題に取り組むことがとても面白く、私は農業の“の”の字も知らなかったからこそ、大変さを実感する前に、農業の良いところだけを先に感じる事ができたと、今振り返ると思います。
実際にやってみると、うまくいかない事や、体力的にもきつかったり、自然相手に試行錯誤することの苦労はもちろんあります。しかしよく考えると、どんな仕事でも大変なことや苦労があるのは当たり前で、農家だけが大変なわけではありません。私の場合は、大変さより楽しさが勝っているので、りんご栽培を始めて良かったと思っています。
非農家からりんご栽培を始めることで良かった点は、知識や経験がないからこそ、いろいろな農家さんのノウハウを抵抗なく取り入れることができるという点です。もともと0の状態からスタートしているので、それぞれの農家さんの良いとこ取りが柔軟にできます。
もう1つは、農家以外のコネクションがある、ということです。ずっと農家一本でやっている方はどうしても農家だけのコミニュティになってしいまい、他業種の方と交わることがあまりありません。私はもともと長野県出身ではなく、農業以外の仕事をしていたので、様々な土地に様々な友人・知り合いがいて、私がりんごを作っていると知ったら、有難いことにぜひ買いたいと連絡をくれる方もいます。こういったコミニュティの多さは、非農家からりんご栽培を始める方の強みだと、私は考えています。また、消費者目線と農家目線の2つの目線を持っている、ということも、メリットのひとつだと思います。