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ホーム読む移住者インタビュー八重樫 聡さん「ホンモノを作りたくて、ここで生きていこうと決めました」
八重樫 聡さん「ホンモノを作りたくて、ここで生きていこうと決めました」

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やっと桜が見ごろを迎えた4月中旬、飯綱町東柏原地区に住む八重樫 聡(やえがし あきら)さん(50)をご自宅に訪ねると、美しい青色のハーブティーを淹れて迎えてくださいました。レモンの爽やかな香りが鼻腔をくすぐるこのお茶は、お湯を注ぐと鮮やかな青い色になるバタフライピーに、レモングラスとレモンバーベナをブレンドしているそう。どれも八重樫さんが育てたハーブです。

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飯綱町に移住して9年になる八重樫さんは、農業のかたわら農産物直売所「いいづなマルシェむーちゃん」で働いています。いつも笑顔で接客することを心がけているという八重樫さん。町内では、「気さくで話しやすい直売所のお兄さん」として知っている人も多いかもしれません。

「お客さまには、まずは買い物を楽しんでもらいたいんです。お店を好きになってもらって、『こういうお店なら買おうかな』『この人の作ったものなら買おうかな』という信頼関係を築いていきたいんです」

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地元の新鮮野菜が手に入る直売所は、まちの社交場のような場所。地元の人はもちろん、観光で立ち寄った人など、さまざまな人で賑わいます。「最近も、来月移住してくるんだという方が来店されましたよ」(八重樫さん)。
おすすめの商品を伺うと「今は、カキ菜などのとう立ち菜(※花を咲かせる茎が伸びた部分のこと。花がつぼみのうちに柔らかい先の方を折って収穫する)ですね。やっぱり旬のものを食べてほしいです」。

この日は、珍しい食用のアザミも売られていました。食べ方の説明付きなので、チャレンジしてみてもおもしろいですね。

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八重樫さんの作るこだわりの農産物は、むーちゃんで買い求めることができます。毎年種を取りつないでいる「ヤエガシ産南蛮鷹の爪」をはじめ、前述のハーブティーは、爽やかなブルーのストライプの袋に入って店頭に並んでいました。興味のある方は、ぜひお買い求めください。

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「かつては植木屋さんや車関係の会社など、いろいろな仕事をしました」

そう語る八重樫さんは、東京都八王子市出身。農業を手がけるようになったのは、当時の奥さまの実家がある岩手県に移住したことが発端だったそうです。その後離婚を経て、息子さんの子育てに専念しながら、子どもには安全な食べ物や環境を与えたいという想いから、こだわりの農業を始めたといいます。飯綱町にやってきたのは、2013年のこと。友人が経営する会社の農業部門として米作りをしていましたが、事業の拠点を長野県に移すことになったことがきっかけで、再びの移住となりました。

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▲家と納屋と田んぼと山がセットだったという自宅

「県内各地の自治体や団体に問い合わせ、米作りができる土地を探したところ、JA経由で引き合わせてもらったのが飯綱町の株式会社ツチクラ住建でした。岩手では納屋がないのがとても不便だったのですが、紹介された農地付きの5DKの空き家は、納屋があって、さらに1反歩弱の田んぼに畑、山までついていました。『ここ、いいじゃん!』という社長の一声もあって、すぐに決まってしまいました」

現在はその会社は退職しましたが、引き続き個人で休耕地を開いて農薬・化学肥料不使用の栽培に取り組んでいます。借家だったこの家は、「これからもここで生きていこうと決めた」ため、思い切って購入したそうです。

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▲男手ひとつで育て上げた息子さんは他県への進学でアパート暮らし

移住当時、小学校4年生だった息子さんも、この春に他県の大学に進学しました。

「岩手を発つときは、友だちと離れたくないと泣いていましたよ。当時の三水第二小学校(※現在は統合して三水小学校)に転入したのですが、子どもの数も少なくてすぐに馴染んでいました」

中学生になると、学校まで片道約6.5㎞の道のりを自転車で通ったそうです。「高校生になってもしばらくは牟礼駅まで自転車でした。ここから牟礼駅までは車でも12分くらいかかるのに、17分程度で行くんですよ(笑)。さすがに受験生になってからは、車で送り迎えしました」

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▲苗床で顔をのぞかせていたバタフライピーのかわいらしい双葉

10年余りの父と子の二人暮らしを終えることになり、「まあ、さみしくはなるよね」と八重樫さん。趣味のフットサルも昨年はあまりできなかったそうですが、今年はもう少し体を動かしたいと思っているとか。

地域の行事は、草刈りや、道普請(道路掃除)などに参加しています。「顔を合わせたら大きな声で挨拶することを心がけています。飯綱町は優しい人が多いですよ」。

知り合いもいないまちに移住して心細かったとき、お世話になった人がふたりいるそうです。

「ひとりはツチクラ住建の西村啓大さん。フットサルに誘ってくれたり、人をつないでくれたりしたよね。もうひとりは、近藤神主さん。移住してすぐ、家の目の前の神社でお祭りがあって、『やえちゃん、やえちゃん」と声をかけてくれたんです。立場の弱い人に優しくできる人って本当にかっこいいですよね。おふたりとも、移住してすぐで右も左も分からなかった自分を、温かく誘い入れてくれたんですよ」

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▲エイジング効果が期待できるといわれるバタフライピーの花は朝顔に似ている

八重樫さんの住む東柏原地区は、飯綱町北部にあり、約40世帯が暮らしています。江戸時代初期に開削された芋川用水が流れ、今でも農業に欠かせない大切な用水として、地区の人総出で保全作業が続けられています。

八重樫さんが無農薬・化学肥料不使用の栽培をしているのは、そんな余沢といえる土地。太陽や空気、水、土など自然界が持つ本来の力を引き出す農業です。農薬はもちろんのこと、有機肥料もほとんど使いません。

「森に倣えというように、自然界は必要な養分がその場に備わっているという考え方です。広葉樹を植えて近くの落ち葉をすき込んだりはするけれど、土地にないたい肥をあえて施したりはしません」

有機JASや、信州の環境にやさしい農産物の認定も「あまり興味ありません。自分のやりたいこととは少し違います。あくまで俺は俺基準」ときっぱり。

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▲今年はインゲンマメの栽培に挑戦。金時豆、うずら豆、虎豆など色とりどり。  

不器用ながらこだわりたい性格だからこそ栽培品種は絞りに絞り、米、ハーブ、唐辛子、ネギねぎ、ジャガイモ、インゲンのみ。農業の目標をきくと「現状維持です」と笑顔で応えてくれました。

「今あるものを、もっとしっかり丁寧に世話したい。この人が作っているものだったら大丈夫だって思われる生産者を目指して、ホンモノを作っていきたい」

飯綱町にしっかりと根を生やす八重樫さんの生き方を見たような気がします。

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