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ホーム読む移住者インタビュー野口雅弘さん・美佐子さんご夫妻「飯綱町に移住したら猟師になってしまいました」
野口雅弘さん・美佐子さんご夫妻「飯綱町に移住したら猟師になってしまいました」

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世田谷に住んで渋谷で働いていた人が、まさか山の中でイノシシを追いかけるようになるなんて、ご本人ですら想像だにしなかったでしょう。今回ご紹介するのは、飯綱町に移住してから猟師に転身した野口雅弘さん(64)と奥さまの美佐子さん(53)です。

当初は漠然と「田舎暮らし」をしたいと思っていたという雅弘さん。こちらでの就職も考えましたが、「せっかくこんないい環境のところに移住したのに、勤めるなんてもったいない」と美佐子さんに反対されたのだと笑います。雅弘さんが猟師になるきっかけは、移住して間もない2016年の冬、隣のおじいさんとの他愛ない会話からでした。
「『山が好きなんだ』と話したところ、『ただ歩いてないでイノシシでも捕まえろ』と言われたんですよ」普通はそこで終わりになりますが、雅弘さんは違いました。「それで、すぐに猟友会会長に話を聞きに行ったんです」。
猟友会に入るには狩猟免許の取得が必要と聞くや否や、勉強に励むこと数か月。「資格試験を受けるからには、きちんと受かってね」という美佐子さんの激励という名のプレッシャーも背中を押して、見事に合格。東京のアパレルメーカーに勤めていた人が、気がつけば狩猟免許を取得してしまったのでした。

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雅弘さんは東京都世田谷区出身。今では商業施設が立ち並ぶ二子玉川で育ちました。

「僕が子どものころの二子玉川は、まだ飯綱のようにのどかな景色があったのですが、だんだん開発が進んでね、すごい賑やかになっちゃった。いつの頃からか田舎暮らしがしたいなと思うようになりました」

飯綱町に来て猟師になってみると「『イノシシを獲ってくれて本当にありがとう』と畑を荒らす害獣に悩んでいた農家に感謝され、『美味しいジビエをありがとう』と肉を分けた人に感謝されるんだよね。猟師になってよかったと心から思うよ」と雅弘さん。

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長野県の狩猟期間は毎年11月15日から2月15日まで(ただし、ニホンジカ及びイノシシ(わな猟※)に限り、翌年3月15日まで延長)と決まっています。猟期以外の期間は害獣駆除の依頼があれば「飯綱町」と書かれた赤いベストを着て出動します。

防犯・防災などの地域情報「飯綱町メール配信サービス」にもときどき「ツキノワグマ出没情報」が届くことがあります。「本日、〇時〇分ごろ、ツキノワグマが目撃されました。出没箇所は次のとおりです。」といった内容で、Googleマップの位置情報も記載されています。小学生の中には日常的にランドセルに熊鈴を付けている子どももいます。田舎は自然が豊かであるぶん動物を見かける機会も多く、猟友会はなくてはならない組織です。
 

猟師としての雅弘さんのポリシーは、「獲った動物の命は大切にいただく」こと。ジビエは獲った後の処置、解体処理の仕方で、味や臭みが違ってくるのだそう。雅弘さんも血抜きなどの方法を教わり、無駄なくいただくようにしていると語ります。

「獲った獲物は加工所に出しています。友人たちとイノシシの丸焼きパーティをしたり、ひき肉にして自家製ソーセージを作ったり。煮込み料理や生ハム作りにも挑戦したりして、ジビエ肉を活用しています」

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ジビエ肉の調理に欠かせないのが、薪ストーブです。「田舎暮らしをするなら、薪ストーブは絶対に外せないと思っていたんですよ」と雅弘さん。

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飯綱町倉井地区にある野口さんご夫妻の家は、築40年の母屋に納屋、土蔵がある立派なお宅。購入前に見に来たときは物置状態で荒れ放題だったといいますが、重厚感のあるつくりで、りんご御殿だった当時の趣ある意匠はそのままに、お風呂・キッチンの水回りだけリフォームしたそうです。

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薪ストーブがあるのは、部屋の一番奥、リフォームしたキッチンのすぐ脇です。煙突位置の制限でキッチンの横に設置することになりましたが、これが大正解。昔の家はお勝手が北側にあってとても寒いのですが、奥様の城であるキッチンはおかげでいつも暖か。ストーブは新潟県に本社があるホンマ製作所のものを選びました。「メイドインジャパンでリーズナブルなのでおすすめですよ」。薪ストーブを調理にもフル活用し、冬はジビエの煮込み鍋がストーブの上でコトコトと音を立てています。

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美佐子さんは、仕事の都合で雅弘さんに半年遅れて移住しました。忙しい時期以外は仕事の調整をしながら田舎暮らしを満喫しています。移住前から続けているフラダンスは、飯綱町でもクラスを見つけて参加するようになりました。さらに、学生時代に吹奏楽部で吹いていたというクラリネットも再び始めたそうです。「ここなら気兼ねなく大きな音を出すことができますから」と美佐子さん。そしてご夫妻共通の趣味が登山です。

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山の思い出をうかがうと、見せてくださったのはお二人が仲良く並ぶ1枚の写真。写真の奥に霞がかって見える山は、なんと世界最高峰エベレストではないですか! 標高6000m近くまで登ったというから、ちょっとやそっとの趣味ではないのがわかります。写真はエベレスト街道で撮ったものだそう。美佐子さんは、キリマンジャロの登頂経験もあるとか。「単純にピークハントが好きなんです。飯綱町に来てからは、飯縄山には何度も登っていますし、白馬、鹿島槍ヶ岳、八ヶ岳、あちこちに登りにいきました。ここは登山に出かけるのにもいい場所ですね」

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狩猟期間が終わると、雅弘さんは薪割りにはげみます。倉井地区は、飯綱町の中でもりんご栽培が盛んで、周囲はりんご農家ばかり。そのため、「薪ストーブがあるからと、気がつくと家の前にいらなくなったりんごの木が置いてあるんです(笑)」。たしかに、複数ある納屋には薪がぎっしりと積まれ、もう置くところがないくらいです。

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「薪割り機は、近所の薪ストーブがある家と共同で使っています。薪割りで1か月くらいは遊べるかな。あとは、畑をやったり、りんごの作業をお手伝いしたりしています」

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お互いを尊重して、それぞれが好きなことをしながらマイペースで過ごす。無理をせず、そこでの出会いを柔軟に受け入れて前向きに楽しむ。そんな心地いい生き方が笑顔に表れているお二人に、移住した感想をうかがいました。

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「目の前に広がる田んぼと奥のりんご畑、遠くに志賀高原の山並みが望める景色が気に入って、この家に決めたんですよ」と美佐子さん。

「狩猟はやりがいがあるし、畑仕事も大好きだし、就職しなくて良かった。飯綱町の時間の流れに体が慣れてしまって、もう東京には戻れないな。こんな生活が待っているとは思ってなかったよ」と雅弘さん。アパレルにお勤めと言われたらたしかにそう見えますが、猟師と言われたらそれも納得してしまうおしゃれな雅弘さん。それっぽいからと髪も伸ばしてみたのだとか。今では友人たちから、「マタギ」というニックネームで呼ばれているのだそう。これからもますます人生を謳歌して、いいづな暮らしを満喫していただきたいですね。

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