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ホーム読む移住者インタビュー三上明美さん 「人生は何事も挑戦。ドッグトレーナーからハーブ農家へ転身しました」
三上明美さん 「人生は何事も挑戦。ドッグトレーナーからハーブ農家へ転身しました」

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眼前に飯縄山が広がるハーブ畑

 

三上明美さん(73)は、2019年5月に神奈川県横浜市から飯綱東高原のカラマツの丘別荘地に移住しました。横浜ではドッグトレーナーとして活躍していましたが「そろそろ私は引退かな」と見極め、所有していた別荘のある飯綱町へ移住を決意したそうです。

水色の外壁が素敵なコテージのテラスには、白いハンモックが揺れています。まるで北欧の森に迷い込んだよう。その風景の中で、真っ白いシャツにデニム、麦わら帽子と前掛け、長靴をさらりと着こなすマダムが三上さんです。

「この家は28年前にきょうだいで共有の別荘として建てたものです。知人から、飯綱で別荘地が売りに出ていると聞いたのがきっかけでした」

2階にはゲストルームが3部屋あり、それぞれの部屋には生成りのカバーが掛けられたベッドが2台ずつ置かれ、センスよく整えられています。

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緑の中にたたずむ水色のコテージ

 

しかし、飯綱東高原は飯綱町のなかでも標高が高く、車で5分も行けば、いいづなリゾートスキー場という立地。夏は爽やかな高原ですが、冬になると数メートルは雪が積もる豪雪地域です。便利な都会から、山の上の別荘暮らしは大変なのではないでしょうか。

「もちろん子どもたちには田舎暮らしを心配されたし、街に比べると買い物の選択肢は減って不便だけれど、私自身は特に不安もなく、やっていけると思ってここへ来たのよ。冬は除雪が大変だけど、除雪機があるから」(三上さん)

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落ち着いた調度品でしつらえられた室内

 

なんともたくましい三上さんですが、飯綱町に移住した2019年は、10月に台風19号で近隣の千曲川周辺が水害に遭い、大きな被害があった年でした。移住して半年にもならないころでしたが、「すぐにボランティアに駆けつけました。私の歳だから、お掃除とかを割り振られるかなと思っていたけれど、年齢お構いなしで泥かき作業でした(笑)」。週3回ほど泥かきの作業に通い、やっと落ち着いたころには冬になっていたと言います。

「のんびりと暖炉に薪をくべているとき、突然思ったんです。これを春まで4か月やっていたら絶対にボケる!と」。

すぐに、いいづなリゾートスキー場に飛び込んで「パートの募集はありませんか?」と直談判したそうです。当時はまだ雪道運転に不安がありましたが、自宅からスキー場までなら平らな道を行けるから、働くならスキー場がいいと考えたそうです。

ちょうど屋内キッズパークの人出が不足しているからと、働けることになった三上さん。その後さらに、霊仙寺湖のほとりのグランピング施設「グランルーク飯綱高原」も手伝うようになります。

「グランルークで朝食を出して、日中はスキー場のキッズパークで働き、またグランの夕食を出して……と一日中働いていましたよ。頭も体も動かしているのが性に合っているし、判断力が衰えないようにしたいと思って」。

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メンバーで協力し合い、雑草肥料で土をつくり摘み取りは手作業でおこなっている。

 

そんなとき、「ハーブをやってみないか」というお誘いが舞い込みます。声をかけてくれたのは、飯綱町スイス交流協議会の方でした。紆余曲折がありながらも、「飯綱ハーバルブリーズ」を立ち上げ、この春からハーブの栽培と加工を手掛けています。「73歳で起業したのよ」とにっこり微笑む三上さんからは、心なしか自信に満ちた表情が見えます。『飯綱町創業支援補助金』も活用したそうです。

「ハーブのことなど何も知らずに始めたけれど、素敵な方々との出会いに恵まれて形になりつつあります」(三上さん)

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飯縄山のふもとにある畑には、ラベンダー、セージ、エキナセア……多種多様なハーブが植えられている。

 

摘み取った花や葉は、ゆっくりと時間をかけて乾燥させ、美しい色を残した状態にするのが、三上さんのこだわり。今を盛りに咲くコモンマロウは、花びらがきれいに開いた状態で乾くよう丁寧に広げ、下向きにして干します。袋詰めにしたときやガラスポットに入れたときに、ハーブの美しさを見せられるようにという美意識からです。

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天井の低い自宅の地下室がハーブの乾燥室

 

前職のドッグトレーナー時代のお話をうかがうと、ドッグトレーナーになったのは、二人の子どもを育て上げた40歳ごろ。当時、3頭のゴールデンレトリバーを飼っていた経験から、訓練士の資格を取って30年以上にわたり活躍、数えきれないほどの犬を「人の話が聞ける犬」に育てたと言います。

「人を噛んでしまった犬も、1か月くらいあれば人の話が聞ける犬にトレーニングできます。私は犬と対話しながら教えていくんです」。しつけに餌を使う方法が主流になりつつあるそうですが、三上さんは人間に話すように言葉で聞かせるのだそう。「犬をトレーニングするのと同時に、飼い主さんにも、こんなときはこんな風に声をかけてねと、メモを渡すんです。飼い主さんを変えないと、犬も変わらないですから」

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乾燥したハーブはお茶やコーディアル(シロップ)にしていただく

 

柔らかい言葉と丁寧な口調で、ハッキリと思いを伝える三上さん。飯綱ハーバルブリーズでも彼女のまっすぐな思いは存分に発揮され、仲間をまとめています。三上さんを慕って集まったメンバーたちは、持続型農業を目指し、ハーブの知識や絵の才能など、メンバーそれぞれの得意分野を生かして役割を分担して飯綱ハーバルブリーズを盛り立てています。メンバーの一人である梨本薫さんは、「三上さんは職人気質なんです。加えて研究熱心だし行動力もあって、私たちを引っ張っていってくれます」と頼りにしている様子です。

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「以前から興味があったハーブに関わりたかった」というメンバーの梨本薫さんも移住者

 

三上さんの一番好きなハーブは? と聞くと、「今はキャンディミントね」と答えてくれました。100種類以上あるミントの中でも爽やかで甘みがあり、ミントキャンディの香料を採るために使われるミントです。「香りが華やかで、ほかのどんなハーブとブレンドしても相性がいいのよ」(三上さん)

華やかでありながら、周りを引き立てるキャンディミントは、まさに三上さんのよう。ハーブは、香りが良く強くて丈夫で働きもの。これからも暮らしを楽しみ、生き生きと活躍する三上さんが目に浮かびます。芯のある生き方のお手本を見せてもらいました。

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